ナラティヴインストラクターとは?
2007年、筆者はナラティヴ・アプローチを学ぶためにロンドン大学キングズ・カレッジで半年過ごすことが出来ました。当初はロンドンで始まったナラティヴ・ベイスト・メディシン(以下NBM)とはいかなるものかと非常に興味をそそられてロンドンに来たのですが、どうも自分の探していたものと違和感があるのです。これは何とかせねばとNBMの代表者であるトリーシャ・グリーンハル教授に相談したところ「あなたの探しているのは、研究というより実践のようね。それでは仲間のジョンに会いなさい」というアドバイスを受けました。彼女の説明によればジョンというのは精神分析で世界的に有名なタヴィストック・センターの精神科医だとのことでした。筆者は精神科専門医で臨床心理士でもあるのですが、何となくフロイト流の精神分析には抵抗があり、これまで避けてきた節があります。半分諦めの境地で会いに行ったのですが、このジョン・ローナー先生が、まさに筆者の探していた人でした。
ジョンは心優しいイギリス人の典型のような人で、全く威張ったところがなく、どこまでも穏やかでした。ケンブリッジ大学出身の優秀な医師で、ナラティヴ・アプローチを、専門の心理士でなくとも臨床でも使える方法を模索しておられました。筆者がイギリスに行った頃はまだ自分でいくつかの医師や看護師のグループを直接、指導していて、筆者も何度もワークショップやジョンの下で学んだ医師の診療を実際に見学させて貰いました。その後も長い期間ジョンからはいろんな事を学びましたが、ジョンの技法はそのままの形では日本では使い憎いようです。一度日本とイギリスのナラティヴ研究者が集まって議論したことがありますが、文化の違いがあって、同じナラティヴでもイギリスのナラティヴ研究はど論理的、それに対して日本のナラティヴは情緒的という共通認識が得られました。
(2009年京都大学多文化横断ナラティヴ・フィールドワークによる臨床支援と対話教育法の開発・ロンドンプロジェクト:山田洋子教授代表)
そのため筆者は日本に戻ってからもジョンたちのやり方をより日本の文化に馴染むものにするため、研究会を組織して、この数年、仲間たちとナラティヴを現場で使えるツールにする研究に取り組んできました。そして、ようやくナラティヴ・インストラクター協会を設立して、本格的にナラティヴ・コミュニケーションの出来るインストラクターを育成する準備が整いました。どうか楽しみながらナラティヴ・コミュニケーションの勉強をお始めください。
資格取得と勉強の仕方
ナラティヴ・インストラクターになるには、何よりも実践的なコミュニケーション技術が大事なのですが、まずは基礎的な教養としてテキストを用いて勉強して頂きます。心理学、精神医学、社会学、文化人類学など様々な分野に及んでいますがテキストを丁寧に読み込んでいただければ難しくはないと思います。なお、テキストはデータで送りますので御自分でプリントアウトしてください。それぞれの章の最後に設問をつけていますので、設問の答えを協会に送って頂きます。最後の章まで終えたらナラティヴ・インストラクター3級の試験問題を送らせて頂きます。
晴れて合格されましたら、ナラティヴ研究会に参加する資格が付与されます。ナラティヴ研究会はいくつかの大学で年に何回か行われます。ナラティヴ・インストラクター3級の方には研究会の場所と時間が開催前にお知らせがあります。研究会は今のところ無料で行っています。ただ今後、開催場所の確保が難しくなれば有料になる可能性もあります。
ナラティヴとは?
どうもナラティヴという言葉が、一人歩きしていると感じているのは筆者だけではないようです。様々の分野でナラティヴという言葉は魔法の呪文のように唱えられ、ナラティヴといえば何でもありの現在の状況はあまり好ましいとは言えません。ナラティヴは「物語」、コミュニケーションの相手の「「物語」を大事にするアプローチだと定義すれば、何でもナラティヴ・アプローチになってしまいます。だからといって、ここで原理原則に拘るつもりもありません。背景にポストモダンの哲学的議論や社会構成主義があることは踏まえておかねばならなりませんが、筆者の理解するナラティヴはあくまで臨床実践を優先します。臨床といっても医療だけを指すのではなく全ての治療的コミュニケーションを臨床実践と呼びたいのです。そして臨床実践は医療者ばかりではなく、カウンセリングや相談業務に携わる方々に学んで頂きたいと考えています。
ナラティヴの歴史
ナラティヴという言葉は1970年代ポストモダンと呼ばれる社会学や哲学などの中から出てきた用語です。ポストモダンの社会構成主義、社会構築主義という学派は、ほとんどの概念は物語(ナラティヴ)であり実体はないと考えるようになりました。
しかしナラティヴが単なる学術用語を飛び出し、現実世界で使われるようになったのは、1980年代後半、心理療法家マイケルホワイトとデビッドエプスタンが「物語としての家族」という本を出版したことがきっかけと考えられます。彼らはナラティヴ・セラピーという心理療法を広めました。同じ時代に米の医療人類学者で精神科医のA. クラインマンが「病の語り」でナラティヴという語を用いており医療を文化現象としてみる医療人類学が広まりましたが現実の医療にナラティヴが持ち込まれることはありませんでした。しかし2000年になると英のT.グリーンハル、B. ハーウィッツ、J. ローナーなどの臨床医がNBM(患者の物語を軸におく医療)を現実の医療の中で使い初め、これまでのEBM(検査結果など根拠に基づく医療)だけだった医療をより人間的な実践にするためにはEBMとNBMの両方が必要だと提唱しました。その流れは米のR.シャロンの「ナラティヴメディスン」とも合流し、現代の医療に影響を与えています。この流れの中でJローナーのナラティヴの教育者としての活動はコロナ禍の中でもオンラインでCIC( conversation inviting change)「変化をまねく会話」という活動が広まり、医療ばかりでなく、会社、学校、役所、司法関係など様々な領域で有用なナラティヴ技法となってきています。しかし微妙なコミュニケーションの領域では西洋と同様の文化の違いも踏まえて発展させて行く必要があると考えられます。
メッセージ
職場でこんな悩みを抱えていませんか?
・管理職になったが、何をどのようにマネジメントしたら良いかわからない
・やたら怒鳴ったり長々と感情的に説教したりする上司がいる
・ちょっとした言動がパワハラだと言われてしまうので、言葉選びにも慎重にならないといけない
・理解力が低く責任感が薄い、自己中心的でいい加減な人がいる
・ 仕事が多過ぎる
・ 古い考え方に固執して、新しいことを取り入れることをしない職場がつらい
・ 同じような指導・説明をしても、部下によって受け取り方が異なる
ナラティヴインストラクター協会はそんな悩みの解決をサポートします。
相手の物語を聴くプロ、すなわちナラティヴインストラクターになるためには、まずは当協会のテキストで医学と心理学からの必要な知識を勉強することから始めましょう。
一見遠回りに見えるかも知れませんが、相手の物語を理解するためには、これが一番の近道です。
代表紹介
中川晶(Nakagawa Akira)
京都府に生まれる。1977年大阪府立大学農学部農芸化学科を卒業。同年大学院に進学。その後中学校の生物学教師を経て、奈良県立医科大学医学部に再入学。1985年奈良県立医科大学を卒業。卒業後は大阪赤十字病院内科研修を終えて、大阪大学精神医学教室へ入局、専門は心療内科だった。1995年なかがわ中之島クリニックを開設。2001年より大阪産業大学人間環境学部助教授を務め、2003年教授となった。精神科専門医、臨床心理士でもある。
2007年4月より9月末まで、ロンドン大学キングズカレッジへNarrative Based Medicine(ナラティヴ・ベイスト・メディシン)の研究のため留学。
2014年から2016年まで奈良学園大学保健医療学部教授を務めた。2017年より京都看護大学大学院特任教授を定年まで務める。
現在:京都大学医学部大学院非常勤講師、なかがわ中之島クリニック院長、日本保健医療行動科学会理事、ナラティヴ・コミュニケーション研究所所長、ナラティヴ・インストラクター協会代表。
専門はナラティヴアプローチ。趣味は絵画、陶芸、物書き。多数の著書があり、うち3冊は台湾語などに翻訳されている。
書籍紹介
⚫︎「こころの癒し方」1995、講談社
⚫︎『やすらぎが見つかる心理学 5つの物語で読む心のコリのほぐし方』PHP研究所, 1997.7
⚫︎『心療内科医のメルヘン・セラピー ココロの重荷が軽くなる11の物語』(こころライブラリー 講談社, 2003.10
⚫︎『「うつ」を遠ざける15の方法』2010年4月 PHP研究所
⚫︎『「嫌われるのが怖い!」がなくなる本 ムリせずラクに生きられる!』大和出版, 2014.1 - 2021年、同書が台湾で翻訳出版。翻訳出版は「心療内科医のメルヘンセラピー」「心の癒やし方」についで3冊め。
共著・監修・編集
⚫︎『ココロの健康からだの医学 からだの文化生理学 ちょっとおしゃべり』中川米造共著. フォーラム・A, 1996.4
⚫︎『「買ってはいけない」論争解決篇』監修. データハウス, 1999.12
翻訳
⚫︎レベッカ・ウーリス『大切な人が、心の病気にかかったら みんなが笑顔を取り戻すための対処法』酒井泰介訳, 中川晶 医学監訳. PHPエル新書 2003.12
⚫︎睡眠文化論 淡交社 2025.2 豊田由貴夫 他
共著
⚫︎心理療法 朱鷺書房 1993.6 頼藤和寛 他
法人概要
名称:一般社団法人日本ナラティヴインストラクター協会
所在地:〒541-0041 大阪府大阪市中央区北浜2丁目1-14 北二ビル5F
設立:2018年8月3日
代表者:代表理事 中川 晶
事業内容:
当会はナラティヴインストラクターに関する以下の活動を行っています。
・ナラティヴインストラクターの育成
・ナラティヴインストラクターに関する技能及び知識の評価
・ナラティヴインストラクターに関する各種講習会、セミナーなどの開催
適格請求書発行事業者登録番号:T4120005020374
お知らせ
2025年12月1日 ホームページをリニューアルしました。
活動報告
2025年
・12/1、12/17 某一部上場企業でナラティヴ研修会を行います。
この企業では、ナラティヴケア室という課を新設して、社員のメンタルケアを推進しようとしています。
代表の中川が、この企画の相談係をしています。
・12/20 山陽短期大学でナラティヴワークショップを行いました。
・11/29 国際ビフレンダーズ自殺防止センターでナラティヴワークショップを行いました。
・11/26 尼崎市職員研修でナラティヴワークショップ講演会を行いました。
職員研修は自由参加にもかかわらず、このシリーズでは最多の66名が参加されました。
・5/31、7/25、10/4 奈良学園大学でナラティヴ研修会を行いました。
・7/7、7/14 京都大学医学部大学院の授業として、ナラティヴ・アプローチの実習を含めた講義を行いました。
・8/23 奈良いのちの電話相談者養成講座でナラティヴ・アプローチの実習をに行いました。
その他
・大手の企業数社の研修内容は、パワーハラスメント対策研修や部下との面談技法に、ナラティヴ・アプローチを取り入れる研修などを行なっています。
・年に数回のナラティヴ研究会を行っています。
